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草加市

新たな物語を紡ぐ挑戦者たち

更新日:2024年11月1日

受け継がれた意志は、未来を彩る

草加の皮革産業は、次世代の若者たちの手によって、未来へと歩み始めている。
彼らは先人たちの技と知恵を受け継ぎながらも、独自の視点と情熱で、未知の可能性に挑んでいるのだ。
その姿は、時代を超えて草加の誇りを未来へとつなげていく決意の現れである。
革と共に歩む新たな物語が今、ここから始まろうとしている。

先代たちが守り抜いた伝統を、さらに前へ

伊藤公則

伊藤公則氏は、草加の地で長年続く皮革産業の伝統を受け継ぎ、日々なめし作業に打ち込んでいる。
幼少期から作業場で父の背中を見て育った彼にとって、革と共に歩むことは自然な選択であった。
父である伊藤達雄氏(2面)は、伊藤産業とそうか革職人会の代表を務め、草加の皮革産業を支えてきた人物である。
その意志を受け継ぎながら、公則氏は自らの道を歩み始めている。

彼が担うなめし作業は、一つ一つ異なる革の特性に合わせて行われる。
革の個性を引き出すには、高度な技術と経験が必要であり、その難しさを日々実感している。
「今の自分の技術は70点くらい」と控えめに自己評価するが、その言葉には、さらなる成長を目指す強い意志が込められている。

かつて伊藤産業には30人ほどの職人がいたが、時代の変化とともにその数は減少し、現在では10人ほどの人数で現場を支えている。
公則氏によれば、人数は減ったものの、今も職人たちは情熱を持って仕事に取り組んでいるという。
少数精鋭の職人たちは、それぞれが持つ技術を駆使して革に向き合い、産業を支えているのだ。
公則氏は、先人たちが築き上げてきたものを大切にしながら、革という素材に新たな命を吹き込もうとしており、「これまでのやり方を尊重しつつ、自分らしい価値を見つけていきたい」と語る。
その言葉には、伝統への深い敬意と同時に、未来を見据える力強い意志が感じられる。
彼は、日々のなめし作業を通じて、革の特性を最大限に引き出す方法を探求しているのだ。

令和6年には、弟の尚弘氏も家業に加わった。
染色作業を担当し、職人たちについていくのに懸命な様子だが、周囲の職人たちが彼の成長をサポートしている。
額に汗を溜めながら作業する彼の姿からは、その真剣さが見て取れる。
「注文通りの色を再現するのが、本当に難しいです」と尚弘氏は語る。
草加の皮革産業は、公則氏や尚弘氏といった次世代の職人たちの力によって、新たな時代を迎えている。
伝統を守りつつ、新たな挑戦をし続ける彼らの姿勢は、これからの未来を明るく照らしていくだろう。

PROFILE
伊藤 公則(いとう きみのり)
伊藤産業株式会社
幼い頃から父の姿を見て育った彼が、伝統を受け継ぎつつ、自らの革新を加えようと、皮革産業に挑んでいる。

公則氏がなめした革

公則氏がなめした革。素材ごとに異なる特性を見極め、日々技術を磨きながら革に向き合う

弟の尚弘氏

令和6年から弟の尚弘(なおひろ)氏も家業に加わり、家族で皮革産業の伝統を支えている

学生×伝統が創る新しい未来

令和5年度にスタートしたブランド「UNISOLE」は、未来を担う学生たちと草加の皮革業者が協力して進めるプロジェクトである。
「より生きやすい社会へ」をコンセプトに掲げ、性別や世代を問わず誰もが使える革製品の企画・製造に取り組んでいる。
令和6年度には、千葉県市原市で害獣駆除されたイノシシの皮を活用する、新たなプロジェクトも進行中だ。
この取組は、学生にとって伝統産業を学ぶ場であると同時に、地域課題の解決や持続可能な社会に向けた行動を考える貴重な機会にもなっている。
プロジェクトに参加する学生の谷口さんは、「革は同じ種類でも一つ一つ異なる表情を持ち、使い込むほどに自分だけの風合いに変わっていくところが魅力です」と語る。
また、地域の課題を資源として活用できることに喜びを感じ、このプロジェクトを通じて、社会とのつながりを実感し、自らの役割を再認識している。

「UNISOLE」の最大の特徴は、学生たちが自らテーマを選び、実践する点にある。
指導を行う株式会社フィリカの富田氏は「学生たちが自ら考え、行動し、その過程で得た失敗や成功の経験が、彼らの成長につながると考えています」と述べ、学生の成長がプロジェクト全体にも良い影響を与えていると語る。
その結果、学生たちはより広い視点から物事を捉える力を身に付けている。
学生たちの新しい視点は、草加の職人たちにも刺激を与えている。
職人たちは「学生たちの柔軟な発想が、私たちに新しい挑戦の機会を与えてくれています」と語り、互いに学び合う関係が築かれている。

令和6年には、「UNISOLE」を地域に根ざした長期的なプロジェクトとするため、そうか革職人会が商標登録を行った。
学生と職人が手を取り合い、伝統と革新が融合するこの取組は、草加の皮革産業に新たな息吹をもたらしているのだ。

富田夫妻とゼミ生

前列中央はフィリカ代表の富田夫妻。
この日は5人のゼミ生が参加

ブランド「UNISOLE(ユニソレ)」

ブランド「UNISOLE」

このブランドは、獨協大学経済学部高安ゼミの学生とそうか革職人会が立ち上げた。
この写真は、今年度制作したカードケース。

Instagram

自分らしさを表現していきたい

島村氏がこの道を歩み始めたのは、革職人を育成する「そうかわ塾」に参加したことがきっかけだった。
彼女は、アパレル業界で働きながら、大量生産・大量消費の現状に疑問を抱き、「もっと長く、大切に使われるものを作りたい」という思いを募らせていた。
しかし、革は使い込むほどに風合いが増し、丁寧に手入れをすれば何十年も使い続けることができる。
さらに、革が食肉産業の副産物であることを知り、その持続可能な側面にも強くひかれ、「そうかわ塾」への参加を決意した。
しかし、革の加工は想像以上に難しく、これまでの経験とは大きく異なる技術が必要だった。
素材の厚みや硬さに応じた繊細な裁断や縫製が求められ、戸惑うことも多かったが、次第に革の奥深さやしなやかな美しさに魅了され、少しずつ技術を習得していった。

学び始めて3年目、彼女にとって大きな転機となったのが成果発表会だった。
「自分には何が作れるのか」と悩み続けた末、アパレル業界で培った技術を革製品に応用するアイデアを思いつく。
試行錯誤を重ねた結果、黒いレザーを使い、シックにまとめつつ華やかさも引き立てるスカートが特徴のドレスを完成させた。
この作品は発表会で高く評価され、彼女に大きな自信を与えることとなった。

島村氏の革製品には、これまでの経験と技術が見事に息づいている。
フェミニンな「フリル」を取り入れたバッグや小物は、革の硬さに柔らかさを加えた独特のデザインが特徴的だ。
今後、彼女は自身のブランドを確立し、革の文化を次世代に伝える活動にも力を注いでいくつもりだ。
「自分の考えが形になる瞬間は、何にも代えがたい喜びです。
子どもたちにも、ものづくりの楽しさを伝えていきたい」という彼女の言葉には、ものづくりへの深い愛情と未来への希望が込められており、これからの挑戦に期待が高まる。

島村千佳子

PROFILE
島村 千佳子(しまむら ちかこ)
Dress Leather/そうか革職人会所属
令和元年、市と商工会議所が主催する「そうかわ塾」に参加し、革職人としての歩みを始めた。
自身の創作に力を注ぐ一方、子どもたちにも「ものづくり」の楽しさを伝えている。

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