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草加市

革に宿る、職人の技と心

更新日:2024年11月1日

情熱が命を吹き込み新たな価値を生む

草加の皮革産業は、約90年という長い歴史の中で、職人たちの技術力と情熱によって築かれてきた。
幾多の逆境を乗り越え、本物だけが生き残る厳しい世界で、職人たちは伝統を守り、産業を発展させるために協力し合ってきた。
その固い結束と不屈の努力が、今もなお草加の皮革産業を支える力強い源となっている。

日東皮革では、職人が一枚一枚丁寧に作業を行う。

日東皮革では、職人が一枚一枚丁寧に作業を行う。
額に汗をにじませるその姿には、職人の魂を感じる

この地には本物の文化が息づいている

創業当初から日東皮革が行っている「米ぬか漬け」という伝統技法は、化学薬品を一切使わず、革の強靭さとしなやかさを引き出す技法である。
手間と時間がかかるものの、この技法を90年近くにわたり大切に守り続けてきた。
「いただいた素材の価値を最大限引き出すことが使命だと思っています」と語る宮本氏の言葉には、職人としての誠実さと、素材に対する深い敬意が込められている。

草加の皮革産業は、昭和40年代に最盛期を迎え、多くの工場が立ち並び、革のまちとして繁栄。
しかし、時代の変化とともに環境保全の基準が厳しくなり、さらに世界経済の後退が産業に打撃を与え、多くの工場が閉鎖に追い込まれた。
かつて60社ほど存在したなめし業者も、今では7社にまで減少している。
この厳しい状況を乗り越えられたのは、確かな技術力を持ち、環境に配慮した持続可能な生産体制を築いた企業だけである。
日東皮革もその一つであり、伝統を守りつつ、時代の変化に柔軟に対応し続けている。

さらに、日東皮革は日本各地で発生している課題にも果敢に取り組んでいる。
その一つが、地方で深刻化している害獣対策における皮の廃棄問題だ。
地域経済に悪影響を及ぼす野生動物は、狩猟による駆除が行われるが、肉は食用として利用される一方で、皮は廃棄されることが多い。
その処理には、焼却による大気汚染や、埋め立てによる土壌汚染といったリスクが伴う。
こうした状況に対し、日東皮革を含む草加の皮革企業は「U-TaaaN PROJECT by SOKA LEATHER」を通じて、これらの皮を革製品に加工する取組を推進している。
廃棄されるはずだった皮を資源として再利用し、地域内で循環させる仕組みを確立したことで、環境保全と地域経済の活性化の両方に貢献しているのだ。
草加の皮革産業は、技術と伝統を守りつつ、地域社会や環境との調和を大切にしながら、持続可能な未来に向けて着実に発展を続けている。

宮本宗武

PROFILE
宮本 宗武(みやもと むねたけ)
日東皮革株式会社
住所:草加市吉町3-4-56
電話048-927-3521

昭和10年、日東皮革がこの地に来たことをきっかけに、草加の皮革産業が始まった。
同社の革は、太鼓・鼓(つづみ)・三味線などに欠かせない素材であり、長年にわたり高く評価されてきた。
自然由来のなめしにより、革本来の強靭さを保ち、邦楽器に独特の力強い響きをもたらしている。

U-TaaaN PROJECT(ユーターン プロジェクト)by SOKA LEATHER

日本各地で被害が発生している野生動物の原皮を受け入れ、なめし加工を行う事業。
原産地の要望に応じて、革の加工やデザインを共に考え、製品として還元し、地域の特産品として経済活性化に貢献。
日東皮革、伊藤産業、河合産業が中心となり、市内の事業所と連携しながらプロジェクトを進めている。

付加価値を付けて還す=Uターンのイメージで、なめす=tanの中に、「a」で始まる言葉の意味が込められている。

affect(アフェクト)関わる
assist(アシスト)支援する
avail(アベイル)役に立つ

力を合わせたことで強みが生まれた

「草加のなめし業者の技術は全国でもトップクラスです。
その環境があってこそ、私たち革職人は細部にまでこだわった製品を作ることができる」と鈴木氏は語る。
彼の言葉には、草加の皮革産業が持つ強みの重要な要素が表れている。
草加の皮革産業は昭和初期から急速に発展し、地域の経済を支えてきたが、時代の変化とともに幾度となく経済的な逆風にさらされた。
この厳しい状況の中で、草加の職人たちは競争ではなく、協力し合う道を選んだ。
情報を共有し、互いに支え合うことで、産業全体の再生を目指したのだ。
協力の輪が広がるにつれ、草加の皮革産業には共に学び、技術を高め合う文化が根付いていった。
そして、職人たちの結束が生んだ成果が「一貫体制」という独自の強みだ。

草加では、原皮の仕入れ、なめし、染色、製品化まで、すべての工程を市内で完結させることができる。
この全てを一貫して行う仕組みによって、職人が革の状態を細かく確認し、その場で最適な処理を行うことが可能になる。
これにより、革の個性を最大限に引き出し、顧客の要望に応じた迅速な対応を実現している。
また、情報を共有するコミュニティが発展しているため、各工程の見通しがよく、製品の品質を安定して保つことができる。
この体制が、草加を「日本皮革四大産地」の一つに押し上げた大きな要因だ。

さらに、草加の職人たちは技術の共有だけにとどまらず、革の可能性を常に探り、新しいデザインや用途を模索している。
草加の革製品は進化を続けており、技術と創造性を融合させることが産業の成長を支える原動力となっている。
協力の精神と技術の共有は、草加の皮革産業における最大の強みであり、職人たちの間に築かれた信頼の象徴でもある。
共に支え合い、学び合いながら培ってきたこの精神が、今もなお草加の皮革産業の質を高め続けている。

鈴木功

PROFILE
鈴木 功(すずき いさお)
革職人としての道を歩み始めて50年以上のキャリアを誇り、卓越した技術と豊富な経験を積み上げてきた革業界のレジェンド。
そうか革職人会・ブランド「彩鞄」の代表として、長年にわたり草加の皮革産業に貢献した経歴を持つ。
現在はその経験を生かし、SOKA LEATHER技術アドバイザーとして、後進の育成と技術の伝承に尽力している。

革を縫い合わせる作業

革を縫い合わせる作業には、繊細な技術と集中力が求められる。
自然につなげ、美しく仕上げるには、一つのズレも許されない。
革の厚みや硬さにも細かく気を配り、微調整しながら丁寧に縫い進めていく

革を薄くすくための専用工具

革を薄くすくための専用工具。
部分的に厚さを調整する工程は、製品の完成度を高め、心地よい質感を表現するために欠かせない

革を裁断する包丁

革を裁断する包丁は、常に丁寧に研ぎ上げられ、使い込むほどに手に馴染む。
長年共に歩んできた相棒は、なくてはならない存在

高品質な革製品

原皮の仕入れから製品化までを一貫して行う草加だからこそ、生み出せる高品質な革製品。
職人の技術が余すことなく注ぎ込まれている

彩鞄(さいほう)
-草加うまれのやさしい革-

彩鞄(さいほう)

1枚の皮が革になり、加工されて靴や鞄となるまでには、50もの工程が積み重なる。
各工程には、それぞれ職人たちが携わり、次々と違う職人の手に渡されていく。
彼らはまるでバトンをつなぐように、技術と情熱をリレーしていく。
この緊密な連携と共に、草加の地で新たな命を吹き込まれ、誕生したのが「彩鞄」というブランドである。

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