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草加宿壱丁目の神酒枠

更新日:2026年6月29日

  • 草加宿壱丁目の神酒枠(左側が甲、右側が乙)の画像

概要

名称(よみ)

草加宿壱丁目の神酒枠 (そうかしゅくいっちょうめのみきわく)

員数

1対

種別

市指定有形民俗文化財

所在地

草加市高砂二丁目地内

指定年月日

令和8年(2026年)6月29日



解説

大山信仰と神酒枠

神酒枠(みきわく)は、草加宿壱丁目で結ばれていた大山講(おおやまこう)において、大山への代参の際に御神酒を丁寧に持ち運ぶために使用した道具です。

大山信仰は、現在の神奈川県伊勢原市の大山に鎮座する大山阿夫利神社(おおやまあふりじんじゃ)や大山寺に参詣する信仰です。山頂付近の自然石は石尊大権現(せきそんだいごんげん)として崇められ、「雨降山」(あめふりやま・あふりやま)との別称のとおり、雨乞や五穀豊穣、病気平癒等の信仰を集めてきました。

江戸時代になると、大山信仰は大山の麓に居住する御師(おし、明治時代以降は先導師[せんどうし])と呼ばれる宗教者が各地を廻って布教活動と講の組織化に努め、江戸時代後期には庶民の社寺参詣熱の高まりとともに、信仰と物見遊山を兼ねた大山詣りが関東各地で盛んに行われるようになりました。

大山詣りでは、招福除災を願って神社に奉納する木太刀や神酒枠が信仰用具として用いられ、特に神酒枠は天秤棒の両端に取り付けて2基1対で用いられました。その様子は、歌川広重(うたがわひろしげ)の『東海道五十三次細見図絵』のうち「保土ヶ谷 道中風俗」等の浮世絵にも多く描かれています。

草加地域の大山信仰

草加地域における大山信仰については、代々御師を務めた旧家に伝わる「武蔵国足立郡檀家帳」や「武蔵国・上総国・安房国・相模国廻村帳」(ともに『伊勢原市史』大山資料編所収)によると、寛政5年(1793年)に北谷村、文化7年(1810年)に草加宿を訪ねた記録が伝わり、特に後者は草加宿五丁目の個人宅に数日間滞在して周辺村々への布教活動に励んでいたことがうかがえます。また、明治時代前半に作成された『開導記』(大山阿夫利神社蔵)と呼ばれる旧国郡別に先導師ごとの檀家数をまとめた資料によると、現在の市域のほとんどの旧村で大山講が組織されていたことが分かっています。

しかしながら、ほとんどの大山講は昭和30年代頃までに活動を終えたようであり、その実態をうかがう記録資料も確認することができません。昭和62年(1987年)に発行された『草加市史』民俗編は、かろうじて往時を知る者の証言から大山講の活動についてまとめており、草加地域では成年儀礼を目的とした代参が盛んであったこと、代参時期に春・夏の厳密な区別がなかったこと、代参の際は白装束に菅笠(すげがさ)、脚絆(きゃはん)をまとった地域もあったことなどが記されているものの、木太刀や神酒枠については触れられていません。

草加宿壱丁目の神酒枠

神酒枠を所蔵している草加市壱丁目町会は、草加宿壱丁目の会合を起源とする町会組織です。草加宿は現在の草加神社通り北側に建立されていた龍光寺(りゅうこうじ)を基点に、北に向かって壱丁目から六丁目に六つの町組に別れ、現在の定期駐輪場辺りまでが壱丁目の範囲でした。

宿内では町組ごとに大山講が組織され、前述の『開導記』によると、壱丁目と弐丁目は合わせて96戸の檀家がいたことが分かっています。町目ごとの戸数は不明ですが、明治9年(1976)成立の『武蔵国郡村誌』(埼玉県立図書館蔵) には宿内戸数は457戸と記されているため、相当数の講員がいたと推察されます。

草加宿壱丁目の神酒枠は、同寸同形の神酒枠2基と神酒樽2個で構成されます。
神酒枠はいずれも霊廟社殿(れいびょうしゃでん)風の造りであり、背部に差し込み口と思われる穴があることから、天秤棒に差して担ぐことを前提に製作されたものと考えられます。意匠は壁面に差異が認められ、甲は右側の壁面に鶴の親子、左側の壁面に鷹が彫られ、乙は右側の壁面に鳳凰と兎、左側の壁面に鷹が彫られています。壁面以外の意匠は共通であり、正面扉は細部まで彫刻が施され、龍の彫刻が扉の周囲と兎毛通(うのけとおし)に組み込まれています。また、斗栱(ときょう)の上部付近には獅子が6体、斗栱の下部付近には波と犀(さい)の彫刻があしらわれています。正面の海老錠付きの桟唐戸(さんからど)の上部には「大山 草加宿」と書かれた額が飾られています。

神酒樽はいずれも錫(すず)製の円筒状であり、差異は認められません。蓋面に注ぎ口と思われる円形の開口部がありますが、いずれも栓は残っていません。

製作時期は、神酒枠とともに保管されていた覚書に明治時代以前との推定が記されますが、詳細は不明です。関東各地に現存する神酒枠の製造時期を考慮すると、江戸時代後期から明治時代前期のものと考えられます。

なお、覚書には代参のとき、神酒枠は代参者の無事を祈願して大山阿夫利神社に見立てて町会事務所に祀られていたことが記されています。神酒枠自体は天秤棒で担ぐことを想定した造りになっていますが、天秤棒の所在は不明であり、 実際の使用用途は時代により一定ではなかった可能性があります。また、大山講が存続していた頃は、町内に店舗を構えていた豪商・大和屋浅古半兵衛(やまとやあさこはんべえ)家に保管していたことが記されており、詳しい時期は不明ですが、その後は町会会館に保管場所が移され、現在に至ります。

2基の神酒枠は斗栱、屋根部分の金具の剥落や脇障子の欠損、欄干のつなぎ目の脱落等が見受けられますが、保存状態は概ね良好です。

大山講で用いられた神酒枠は、調査報告されたものに限っても埼玉県、東京都、神奈川県で20件ほど確認されており、その所在の多くは町場(まちば)に集中しています。豊富な彫刻に飾られ、屋根の形式も多様で豪華な意匠であることからは、町場の講員が潤沢な資金を投じて製作したことを想起させます。

今回指定した神酒枠は、既に活動が途絶えて久しいながらも、かつて関東一円に広まった大山信仰の草加地域における実態を考える上で大変重要なものです。また、他地域の神酒枠と比較しても装飾や保存状態に遜色ないことから、市指定有形民俗文化財に指定すべき価値を持つものとして評価します。

草加宿壱丁目の神酒枠(神酒樽)01
神酒枠内に納められていた神酒樽

草加宿壱丁目の神酒枠(神酒樽)02
屋根部を取り外して神酒樽を収納します

草加宿壱丁目の神酒枠(額)
草加宿と刻まれた額

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