更新日:2011年5月25日
広報そうか 第369号 昭和56年9月20日号
主人を救った逃げ道
(12)ムジナの恩返し(新里町)
新里村のお屋敷の主人は、代々有徳の士が多く、また慈悲深かったため村の人たちの信望を集めていました。
そんな主人を知ってか、お屋敷のやぶに棲(す)んでいたムジナが、いつしかお屋敷の庭に出没するようになりました。
それを見た主人は、「こんなに人目につきやすい所にムジナが出てくるとは、きっとエサがなくてひもじい思いをしているのだろう」と考え、そっと庭のケヤキの木の下にエサをおきました。
すると、やぶの中に棲んでいたムジナたちは、一匹、ニ匹と、しだいにその数を増してケヤキの大木の幹に棲みつき、やさしい目つきですっかり主人になつくようになったのです。
そのころ、この村の付近には凶暴な盗賊が出没して、村人たちをふるえあがらせていました。しかしこの盗賊は、新里の生まれだったため、郷里の村にだけは悪事を働きませんでした。
ところが、日がたつにつれ、他村への悪事がますますひどくなり、新里村の指導者であったお屋敷の主人もついに放っておけず、この盗賊をつかまえる決意をかためました。
一方、このことがいつの間にか盗賊の耳に入り、盗賊は逆上しました。そして、お屋敷の主人を殺そうと日夜その機会をねらっていました。
それを知った主人は、屋敷の警戒を厳重にして、夜は戸締りを怠りませんでした。
しかし、ある闇夜の晩に盗賊はついに警戒のスキをついて裏口から屋敷内に入り、主人を殺そうと寝室に忍び寄りました。異様な物音によって盗賊の侵入を知った主人は必死で表玄関に逃げました。しかし、厳重な戸締りに気づき、もはやこれまでと観念しました。
ところが、あれほど厳重に戸締りをしたはずの戸が、まるで逃げ道のように大きく開いているのです。主人は夢中でそこから外に飛び出し、闇にまぎれて近所の農家に逃れることができました。
「運がよかったですね」と、どの村人からも言われました。
しかし、その時主人は確かに見たのです。闇の中から自分を気づかい、逃げ道を教えてくれたやさしい目を。
そして主人を追った盗賊も見ました。はげしい憎悪に燃え、今にも食いつかんばかりの恐ろしい無数の目を。
この事件の後、盗賊は二度とこの村には姿を見せず、その後も悪事を働いたという話はついぞ聞かれませんでした。
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