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草加市 SOKA CITY

松並木の狐

更新日:2011年3月31日

広報そうか 第367号 昭和56年8月20日号

狐に化かされた医師

松並木の狐

(10)松並木の狐(栄町)

狐(きつね)は狸(たぬき)とともに人を化かす動物の代表とされています。

昔々、草加宿に人徳の高いお医著さんが住んでいました。その人は医者としては質素な生活をしていましたが、お金がなくて困っている人には無料で診察し、どんな時でも往診に来てくれるので、みんなから慕われていました。「やあ権兵衛さん、元気にやっとるかね」「はあ、おかげ様できつい野良仕事も平気です」「それはよかった。だけどあまり無理しちゃいかんぞ」

ちょうどそのころ、この村近にいたずら者の狐が住んでいました。この狐、先生の評判を聞きつけて「よし、ひとつあの医者をギャフンと言わせてやろう」と生来のいたずら心がムクムクと頭をもたげてきました。ある晩おそく、先生の家に「わが家のあるじが急病で苦しんでいます。どうか治してください」と訪ねてきた者がいました。「おお、それは大変だ。さっそく行くから、案内しておくれ」と先生ごひいきの人力車夫の甚兵衛さんの操る人力車に乗って出かけてきました。その家の病人が弱々しい声で「先生、私はもうだめです」と言うと、「何を言うのだ。“病は気から”と言われているように、本人がしっかりしなくてはだめじゃないか。よしよし、すぐに楽にしてあげよう」といって治療をはじめました。実はこのお医者さん、まんまと狐にだまされてしまったのです。

さて、夜明け近くになっても二人は帰らないので、先生の家では大さわぎ。「先生は熱心だから遅くなることは多いけど、今夜は特に遅いなあ」「悪い狸にでも食べられたんじゃないのかな」などと言い合っていましたが、とにかく探してみようということになり、手分けして探しに行きました。「おーい、先生」「甚兵衛さんやーい」、人々は二人の名前を呼びながら探すと、松並木の所に人影がありました。近づいてみると先生ではありませんか。奇妙な事に先生は松の木に向ってしきりに注射していました。また甚兵衛さんも松の木に毛布をまいているのでした。

「よしよし、これで楽になるよ」「先生、何をしているのですか」と言われてハッと我に返った先生「こりゃ、まつがって(間違って)松に注射してしまった。まつい(まずい)なあ」、これを聞いた狐君、「これはまいった。もう草加にはコン(来ん)」ということで草加から姿を消しました。「狐に化かされた医師」のお話でした。

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